2022.03.31 UP
雙日が出資するトライステージが手掛ける「日本百貨店」。日本全國からこだわりの食品や雑貨をセレクトして販売しています。2021年9月には新しいコンセプト「ニッポンの百貨をおもしろく?!工驋鳏?、大幅にブランドをリニューアルしました。これまでのシンプル、クリーンから一転、ポップでキャッチーな世界観へと劇的に変化。日本各地の暮らしに根付いた民蕓品や日用品を取り扱うショップは上品?上質な雰囲気がほとんどですが、日本百貨店はなぜ獨自路線の開拓を選んだのでしょうか。リブランディングを手がけたKnot for, Inc.の代表兼アートディレクター?上杉滝さんとグラフィックデザイナー?イラストレーター?上杉咲さん、日本百貨店代表取締役?浮ヶ谷祥さんがその裏側を明かします。
Text&Edit _Shota Kato
Photograph_Kaoru Yamada
日本百貨店代表取締役?浮ヶ谷祥さん。
ブランディングやリブランディングとは通常、明確な企業課題の解決や節目のタイミングに行われるものです。ところが、日本百貨店のリブランディングプロジェクトはその正攻法とは異なるプロセスを経てきました。そもそもはリブランディングとは関係のない、プライベートブランドのパッケージデザインから始まったのです。
「パッケージデザインの相談が、まさかリブランディングに発展するとは。もともとはギフト需要のパッケージデザインの依頼だったんです」(浮ヶ谷さん)
浮ヶ谷さんはデザイナーを調べていくなかでKnot for, Inc.を見つけて依頼しました。両社のコミュニケーションを積み重ねてお披露目されたのが、日本百貨店として初のプライベートブランドである「NIPPON HYACCA」です。
NIPPON HYACCAのブランドロゴとパッケージデザイン。
2020年9月にローンチ後、順調なスタートを切ったものの、実店舗8つの中である現象が起こりました?!窷IPPON HYACCA」の売れ行きが良い店舗とそうでない店舗が半々に分かれたのです。
(左)Knot for, Inc.の代表兼アートディレクター?上杉滝さん。(右)グラフィックデザイナー?イラストレーター?上杉咲さん。
「パッケージをつくった後の反響をヒアリングしたら、『実はこんなことがあって...』ということがわかって。パッケージデザインだけでは解決しない問題が多々あることを知りました。ですので、『よりよくするために、社內全體で意識を共有して、日本百貨店の魅力を見つめ直すところから始めませんか?』という提案をしたんです」(上杉滝さん)
「店舗ごとに個性が違っていたので、ワンテーマでひとつの商品を売るということに問題があったんです。それをきっかけに、このままギフトコンセプトだけで押し進めていいのかなという疑問が生まれたんですね。そこからリブランディングに変わっていきました」(上杉咲さん)
リブランディングプロジェクトの皮切りとなったワークショップ。日本百貨店メンバーたちがそれぞれに思う日本百貨店像を挙げていく。
商品開発の現場から立ち上がったリブランディングプロジェクト。目の前に現れた課題?問題の解決から始まった取り組みにはリアリティが伴っていました。まずは日本百貨店の中核メンバーも交えて、社內の共通認識を合わせるためのワークショップを開催。
「私たちはすごく不器用な會社なんです。他にはない良いところがあるのに世の中にうまく発信できていなかった。でも根本の原因は、それが何なのかをちゃんと私たち自身で共通認識として持てていなかったこと。當時は私たち一人ひとりが "日本百貨店らしさ"を日々手探りで探しながら走り続けているような狀況にあったので、一旦立ち止まって、まずは全社共通となる指針をつくろうと」(浮ヶ谷さん)
「3,4週間かけてワークショップを実施していくなかで、みなさんから出てきた言葉におもしろい斷片が落ちていたんですよ。それを拾い集めて再配置するだけで、競合他社と比べてすごくユニークなものになるという予感がありました。それぞれが思う日本百貨店を言語化して束ねていく?!氦い恧い怼护趣い?、後にシンボルになる言葉や『ニッポンの百貨をおもしろく?!护趣いΕ偿螗互抓趣悉饯长閷Г訾丹欷郡猡韦胜螭扦埂梗ㄉ仙紲訾丹螅?/p>
「百貨」の象徴として「いろいろ」をモチーフにした新ロゴマーク。個性的なロゴタイプと相まって、日本百貨店ならではのユーモアを表現している。
いわゆる「和」のイメージは上品、上質、豊かな暮らしだったりします。でも、どうやら日本百貨店が表現したいものは違う、ということに日本百貨店メンバーと上杉さんたちは気付きました。日本百貨店らしい「新しい日本感」をどうすれば打ち出せるのか。目指したのは、豊かで多様な日本文化でした。
「みなさんに『変えたい』という意思があったんですよね。それと同時に『良くしていきたいけど、どうすればいいの?』という悩みを抱えていて。以前の日本百貨店はユニークな企畫を全店共通でやるという感じではなく、各店の店長さんの采配でやっているという感じだったんです。私たちが感じたおもしろさを引き出せていない狀態だったから、これからはブランドとして打ち出して、ユニークな編集力を前面に出していきましょうとみんなで認識できた。そこから良くなっていったなと」(上杉咲さん)
「日本百貨店らしさであり他社との差別化となる強みを、『ニッポンの百貨をおもしろく?!护趣いΕ偿螗互抓趣趣筏蒲哉Z化することができましたが、そのコンセプトを額縁に入れて飾っておいても、世の中には伝わらないんですよね。受け手からしたら、コンセプトは、それを體現する活動を目にしたり、実際に経験することでしか伝わらないので、私たちの日々の活動がとても大事になってきます。そしてその活動をコンテンツにして発信することで、より多くのひとに、より深く伝えることができるので、これからはそこにも注力していきたいと考えています」(浮ヶ谷さん)
リニューアル時に披露された、酉の市の熊手をモチーフにしたビジュアル。
コンセプトの言語化を経て、「いろいろ」をモチーフにしたロゴマークを開発。その後、オンラインショップも新コンセプトのもと、デザインを新たにオープンしました。1.2メートルもあるオリジナル熊手のビジュアルは、まさに「ニッポンの百貨をおもしろく?!工浒儇洡榕缮工搿袱い恧い怼工蝮w現したものです。新たなガイドラインやタグラインづくりのための情報整理やコピーライティングは協業パートナーであるWhite Note Inc.が手掛けました。
イラストやグラフィックが多用されているオンラインショップのコンテンツバナー畫像。
新しいオンラインショップはパブリッシャー機能を兼ね備えた情報発信型です。商品寫真はビビッドな背景紙を駆使したビジュアルに。特集や読みものもカラフルな色使いで統一し、ポップなイラストを添える。記事は週ごとに編集會議を設けて、White Note Inc.を中心に企畫を練るという盤石の體制で運営されています。
「わたしたちは枠をつくっただけで、コンテンツの中身は社員のみなさんが引き出しとして持っていたものなんですよ」(上杉咲さん)
「やっぱり『気づく』というプロセスがあったことが大きいんだと思います。どれだけかっこいいことを語っても、社內の臨場感が高まらないと変わらないし、変われない。その意味では、このプロジェクトは実になるプロセスを踏んでいけたと思うんです」(上杉滝さん)
実店舗の內裝デザインの方向性も、リブランディング後はKnot for, Inc.が中心となって考えています。2022年3月には、ルミネ立川に「日本百貨店たちかわ」(*期間限定ショップ)、広島県の老舗百貨店、福屋広島駅前店內に「日本百貨店コーナー」をオープン。また雙日の紹介から日本全國の高速SA/PA?空港の合計14拠點に日本百貨店のコーナーがつくられています。
上里SA內にある日本百貨店の売場。細部に日本の技を用いている。
「関越自動車道の上里SAの売場は、上杉さんたちと一緒にコーナーのコンセプトから提案して、レイアウト、裝飾、什器、MD、POPまでトータルプロデュースできました。実はリブランディング後の日本百貨店を體現した最初の場所は上里SAの売場なんですよ。その後、逆に日本百貨店の直営店の店舗改裝で參考にしています。これも通常とは逆の流れですよね。上里SAでは想定以上の売上があって、クライアントも大変満足いただいています」(浮ヶ谷さん)
「內裝デザイナーと話し合って、什器のディテールには一見わからない日本の技を使っているんです。細かい部分も日本的な朱赤に塗っていただいたり。日本百貨店のリブランディングは跳ね返りが大きくてやりがいがあります。社員のみなさんが日本百貨店を背負っている自覚を持ち始めると、表情や言葉に表れてきたりする。関わっている人たちのトーンが微妙に変わってきていると受け取れた瞬間が幸せなんです」(上杉滝さん)
「わたしも社員さんとのコミュニケーションが楽しくなってきました?!氦长ΔいΔ长趣颏筏郡椁猡筏恧い扦工瑜汀护趣?、會話の內容が1年前とまったく違うんですよ。それが一番うれしいかな。一緒に相談したりするつくり方はパッケージひとつでは味わえないですから」(上杉咲さん)
ノベルティとしてつくられたトイレットペーパー。日本百貨店のコンセプトがプリントされている。
2021年9月1日にお披露目となった日本百貨店の大型リニューアル。半年が過ぎたいま、浮ヶ谷さんはこれまでの効果をあらゆる部分で実感しています。
「インナーブランディングの他にも想像以上にプラスの影響が出ています。既存?新規の取引先からの問い合わせ、商業施設からの出店オファーも増えました。テレビ局からも問い合わせが殺到していて、先日はいちごフェアを約5分半の尺で取り上げてもらいました。あとは地方自治體からマーケティング支援してもらえないかという相談も。挙げたらきりがないくらい、とても貢獻していただいています。もちろん、売上にも」(浮ヶ谷さん)
日本百貨店とKnot for, Inc.が現場で見つけた課題と問題。そこから始まったリブランディングプロジェクトは社內外の垣根を越えて、橫並びのワンチームとして強く結ばれています。いまでこそ切磋琢磨していくフラットな関係ですが、最初は浮ヶ谷さんと上杉さんたちの周囲にアウェイ感が漂っていたといいます。
「私にリブランディングの実績がないから、最初は社內の誰も信じないですよね(苦笑)。ちなみにオリジナル商品をつくることになった時も周りは懐疑的で、絶対失敗すると思われていたと思います(苦笑)。
でも、リブランディングが形になってきて、目指す方向が見えたことで、「ニッポンの百貨をおもしろく?!工蜃苑证纬证翀訾扦嗓w現するかを考え始める社員が出てきて、彼女たちや彼らの意識に変化が出始めたことを感じました」(浮ヶ谷さん)
「コンセプトづくりって売上にすぐ表れるものではないから、その良し悪しを判斷できないのは仕方ないというか。大きかったのは、上品?上質な和の世界観を構築するというスタイルが日本百貨店に合わないと気付けた點ですね。そこで浮ヶ谷さんが舵を切ってくれたことがすごいですよ。リブランディングって助走期間が長かったりするから、ぐっと我慢しなきゃいけない。浮ヶ谷さんがぼくらと社內との板挾みになっているのをわかっていましたが、ここで焦ったらダメだと知らないフリをしていました(笑)」(上杉滝さん)
「NIPPON HYACCA」からリニューアルされたプライベートブランドのパッケージ。上質?上品からポップでキャッチーなデザインに。
ショップカードとショッパーもカラフルなあしらいに。
オンラインショップのコンテンツが増え、実店舗の出店やイベント催事の機會も著実に増えてきました。日本百貨店を知ってもらうための機能がある程度揃ったいま、「やっとスタートラインに立てました」と上杉滝さんは力を込めます。
「ただ買い付けてきて売るのではなく、日本の奧深いもの、受け継いでいきたいものを伝えるような活動をしていく。その活動の中で商品を買ってもらえるような運動體になれば理想だなって。始まったばかりでまだまだこれからですが、きっと日本百貨店は見たことのないおもしろいブランドになるだろうなってワクワクしています」(上杉滝さん)
「日本百貨店はミッションに『ニッポンのモノヅクリにお金を廻す』を掲げています。私たちはつくり手には寄り添えていたとしても、これまで使い手である顧客を私たちの活動に上手く巻き込めていなかった。今後は使い手も活動に巻き込み、そんな取り組みや活動をコンテンツにして発信して、使い手と一緒にさらに多くのファンをつくっていきたい。こうやって言葉にすると堅いけど、日本百貨店はニッポンのモノヅクリの世界を取り巻く敷居を下げて、気楽に入れる入口になれるんじゃないかなと」(浮ヶ谷さん)
最初はパッケージデザインという「點」だった日本百貨店のクリエイティブ。それが課題と問題を見つけたことでリブランディングという地続きの「線」に変わっていきました。目指すのは、日本全國のつくり手と使い手を繋ぐ獨自の活動を形にしていくこと。日本百貨店はユニークな切り口を武器に、日本各地に根付く"いろいろ"を伝えていきます。
雙日のグループ會社、トライステージが手がける日本百貨店。日本の人やモノを愛してやまず、全國各地のスグレモノを発掘するセレクトショップ?!弗衰氓荪螭伟儇洡颏猡筏恧??!工颔偿螗互抓趣藪鳏菠胜?、周辺や背景にある「人」「心」「技」「文化」を大切にしたユニークな切り口で新編集し、日本全國の“いろいろ”を発信している。新しいも古いも、高価も安価も、洗練も雑多も、遊びも真面目も、日常も非日常も、かっこいいもそうでもないも。日本百貨店に集まるあらゆるいろいろをおもしろく、日々の暮らしを楽しく彩っている。ユーモアあふれる記事も人気なオンラインショップと東京?埼玉?千葉にて8店舗を展開中。